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 第9回 「17メートル」

 前田究さんという男性に会った。年齢は29歳の僕より1つ上。京都府出身で鹿屋体育大学陸上部のOB。専門は幅跳びで7M13という素晴らしい記録を持っている。

 現在、ハートピアかごしまの中にある鹿児島県身体障害者福祉協会というところに勤めている。そして自身も車椅子の生活を送っている。 大学1年の秋、交通事故により歩けない身体になってしまったのだ。

 いろいろな話をさせてもらった。その中でもやはり陸上競技の話の時だけは、目の輝きが変わる。陸上競技のトレーニングの1つに“5段跳び”というのがある。簡単に説明すると、助走をつけて3歩でどこまで跳べるかという“3段跳び”という種目があるが、あれで助走をつけずに5歩でどこまで跳べるかというものである。

 前田さんはそれでなんと「17M」跳んでいたそうだ。17Mはめちゃくちゃ強い!メジャー持ってる人は17M計ってみて、そしてそこを助走なしで5歩で跳んでみて欲しい。普通の人は10Mいけばいいほうだろう。すごさが分かる。

 「5段跳びやりてーなー」

 前田さんはこう言った。5歩で17M跳ぶ。その時人はまさに空中を「跳ぶ」のだ。その感覚はまさに快感だったのだろう。しかしもう1度その感覚を味わえる可能性は極めて低い。

 僕はある企業の陸上部で走っていた。が、ある日突然その陸上部がなくなり、そして走ることから遠のいてしまった。走ることに対する価値観が変わってしまったのだ。

 甘い。今回痛烈にそう思った。風を感じてただ気持ち良く走る。僕も小さい頃はそういう気持ちで走っていた。いつからそんな気持ちがなくなったのだろう。

 スポーツの楽しさを教えられる人間になりたい。

                         (SCC代表)