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 第13回 「がんばれ三雲さん!」

 「もうちょっと膝をあげて!」 「右手の位置はここ!」

 きめ細かに指導する声がグランドに響き渡る。コーチの名は平井達雄さん(22)。鹿児島大学陸上競技部3年生。そしてその指導を受けているのは三雲明美さん(42)。陸上競技短距離100M視覚障害B1クラス日本記録保持者。そのタイムは「14秒81」。

 現在、秋に高知県で開催されるジャパンパラリンピックを最大の目標に、また自身の持つ日本記録の更新と、来年フランスで開催される世界選手権の標準記録(14秒75)を切るためにトレーニングに邁進中である。

 しかし、この三雲さんの持つ14秒81という記録。健常者のマスターズのその年代と記録と比べても何ら遜色ない。僕は是非一般の試合で走っている三雲さんの姿が見たいと思った。

 しかし話を聞くと、乗り越えなければいけない壁は多そうだ。三雲さんは伴走者がいないとレースに出場できない。その伴走者が一般の試合でいうと「助力」にあたるらしい。

 陸上競技のルールでは、選手はグランドの中では1人の力で戦うべきという考えの下、グランドにいる選手にスタンドその他から助力・助言を与えることは禁じられている。 「助力ってなんなんですか?」三雲さんは続けて言った。 「わたしにとって伴走者は、健常者がコンタクトや眼鏡をかけて試合に出るのとなんら変わりはない。伴走者をつけて走ることは助力でもなんでもない。わたしはわたしの力で走っている」力強く言った。

 三雲さんは今腰痛と闘いながらトレーニングに励んでいる。ギリギリの怪我と戦うその姿勢はまさにアスリートである。そこには健常者も障害者もない。スポーツを愛する気持ちは一つなのだ。

 実際問題、健常者と障害者が同じ土俵で戦うようになるには様々な壁があるとは思う。でもスポーツってなんなんだろう。僕はスポーツは一言で言えば「感動」だと思う。スポーツとは多くの人に感動を与えるもの。三雲さんが一般のレースに出場する姿を見れば、僕は間違いなく感動するだろう。勝ち負けだけがスポーツじゃない。